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4 もし私が絵かきだったら、100年残るような大作になるはずだったのに。 [story [物語のスペース]]

結婚パーティーの前日には、準備はおおかた終わった。


当日は小雨模様で、パーティーには40人ほどが集まった。

会場は、静かな雰囲気で、合間には、ムーディな感じのピア

ノの演奏がBGMで流れていて、田野さんが  

二人の馴れ初めをインタビューしたり、

なごやかに時は過ぎていった。

そして、小一時間ほど過ぎたころ花嫁の最後のわがままの例の

余興が幕を開けた。

パーティー用のドレスでマイクスタンドの前に、結華は堂々と立った。

ギターのイントロにあわせて、曲が始まった。

太郎は黒いスーツで、私はパンツスタイルで、田野さんは、

サラリーマンのような、スーツ姿であったが、

「抱きしめたい」のまあ少し雑な感じの演奏は、会場全体を振動させるように響き、

出席者たちは曲の後半にはダンス始めるものも居て、場はおおいに盛り上がった。

結華の唄う姿はミスマッチだが、

ぶっっちゃけた感じが物凄く良くて、紙テープがアチコチに飛び、クラッカーの音が、

曲の終わりにタイミングを合わせるようにパン、と響き渡った。


夜の10時過ぎ、1次会のパーティーを

終え、残った10名位の一団が、2人が行き着けの店にたどり着いた。


雨は相変わらず降り続いていたが、店内は結構賑やかで、薄暗い店内で大人数

用の席につくと、凍り付きそうな指先をさすっては暖めた。中には、ちゃんと

同級生4人ほどで、宿泊先を確保してきた

メンツもいて、随分長い時間いろいろな話しで盛り上がった。

その日、パーティーの終わり間際に結華がふと発したあの何気ない言葉が、

今も忘れられずに、時たま思い出すことがある。


「まさか、こうなるとは夢にも思わなかったの。これから先の自分の人生が

夢物語みたいに感じるのよ。」


そういう彼女は、今までの私が知っている彼女とは違い、白く光り輝いている

みたいに見えて、なんだか、

結華が遠い存在になってしまったみたいで、胸が苦しくなった。

私は、この日のことと、結華の姿を一生忘れることはないだろう。心の中で、

強く思った。

[小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨]

 2012年~

12月はもう、本当に大詰めを迎えていた

私は東京駅にいて、プロジェクションマッピングというものをひとりで見物に出かけた。

プロジェクションマッピングというのは、大きな建物や造形物に3Dの立体映像を

投影して、音楽に合わせたりしてイルミネーション感覚でそれを楽しむものだ。

私は、既に、30代の後半に差し掛かってしまった。そして、まだ、ひとりで

いるどころか、もう父を亡くしてしまって

いたし、20代の頃から仕事だけは相も変わらず、同じ仕事をしていたが、

反対に、そんな仕事でよく生活をしていける、とか、一人になってとても

愚痴っぽくなってしまった母親には、顔を合わせるたびに文句を言われる。

ちょうど、父がなくなる前に、ひとりの男性と同棲をしていた時期があった。

同業者で、結婚するつもりで同棲を始めて半年ほど経ったときに、父が突然

病に伏してしまった。そして、それから半年ほどであっけなく

亡くなってしまって、その影響か母はしばらく体調を崩してしまい、

そのことが原因で、私が忙しすぎたために、彼は簡単に出ていってしまった。

あまりに、あっけなく一度にいろんなことが起きたので、なんだか

ちっとも現実感がなくて、何に対しても涙のひとつも流れなかった。

父の葬儀のあと、1ヶ月くらいだった。いつものように部屋の鍵

を開けると、部屋の中はガランとしていて、

彼の荷物という荷物は何一つなくなっていて、キーホルダーの外された

鍵だけが、キッチンのシンクに転がっていた。

その時に、始めて気づいたこと。そう、彼は実家の話をしていたが、

「いつか行こう」と話したまま、

私はそれから1年もその話しにはまったく触れもしなかったっけ。忙しさにかまけて。

なんだか、何もかもが面倒になっていた。

母の体調もだいぶ安定し、すっかりひとりもんになってしまい、

もう結婚を夢見ることもなくなっていた。そんなことを母に冗談交じり

でいうようになりはじめていた、昨年の正月、結華から、

久々に年賀状が届いた。電話で、父のことや、彼との話なんかをしていたので、

本当に久しぶりだったが、そこには、子供と夫婦の幸せそうな写真が印刷されており、

なんだか、すっかり大阪のおばはんみたいになってしまったなあ、

と母と失笑した。

結華とはあの結婚パーティーの15年くらい前以来結局一度も

会うことができなかった。

この物語はフィクションです。

著作権は、ブログ作成者にあります        

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