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地上のすべての人たちのためのしあわせの唄 [story [物語のスペース]]

明治時代から、文壇の作家は同人誌
に作品を掲載したり、文筆を生業と
する作家は文庫を出版したり反対に
現代は賞ベースで出版ありきの風潮
がある。私も色々出すが賞が必ずしも
取れればいいわけでもない感じもして
きている。
ステイタスではあるが、同人誌的な出
版は今までもあったし、雑誌とかはも
ちろんバイトにもなるが、1人で1冊出
せるチャンスもあったがたかが1冊では
職業として成立しない(*_*)
 
簡単には陽が当たらないので、せめて月
神のご加護の元に月の光くらい当たると
いいかも(^o^)
小説と短歌と詩のどれが適性があるかが
賞では簡単にわかりにくいので
反応をブログで見てみようと思った。
アクセスカウンターもつけたので、
チャレンジ(^o^)
小説も詩も短歌も公開は最初
すごく照れがあったが、だい
ぶ慣れてきた。
29年春に完成して、受賞ならず。
初公開!出品規定は30首1作品でした。
娘の受賞とダブルはないか、さすがに(^o^)
      
     
      151568237780213198439.jpg    
オリンピックカウントダウン(^o^)
東京オリンピックまであと926日!
     
     
地上のすべての人たちのための
                            しあわせの唄
~くりかえし過ぎゆく季節へ~
   1
仰ぎ見れば  成層圏に届くほど
            深い空色   果てしなき瞬間(いま)
         
雑踏の中に紛れて  我ひとり
         ただ刻みゆく    季節を思う
 
そよ風を肌に感じてその右手
          紙飛行機は   その掌旅立つ
 
しあわせをことばにすれば簡単な
             そのものかたちどう思うかな
 
ふと思う 幼き頃の浅き夢
               滲む瞳に雨降りはじめ
 
    2
「しあわせというものそれは」
  と君はいう続きの言葉は雨音に消え
         
画面から聴こえるおとは刹那の報
                帰りを急ぐ雑音かき消す
   
幸福を祈りをこめて口にする
           ただそれだけで   時は止まらず 
          
人生で時を重ねたその悲哀
              突き抜けるよな空色に似て
     
かたちなき   その言葉では簡単に
            届かぬものとただただ思う
      
      
    3
     
世界一空に近いところでも
               ほど深い海   ならまだ遠い
       
ほんとうの幸福の絵は我がこころ
            一枚の絵の 様に鮮やかに
   
夏の夕   西に沈む陽  うず高く
                 まだ頂きに残る彩雲
    
夕闇の星の瞬き仰ぎ見て
              未来永劫   幸いま祈る
       
見上げれば漆黒虚空の暗闇に
               散らばる無数の星ぼし思う
    
  4
            
過ぎ去りし幼き我が描く夢
               飛行機雲や虹の弧を描く
        
街角に秋風が吹く夕暮れに
               その向日葵はまだ花残り
      
全天の橙色の夕焼けが
              訪れる明日  こころに思う   
      
柔らかな陽射しを浴びる秋桜に
                まだ遥かなる春を夢見る
     
受話器とは言わなくなった機械から
                   聴こえる声にもの想うから
     
   5
      
夕闇が訪れふいにしんとする
                  日々過ぎるほど冬は近付く
      
北風のまだ明けきらぬ朝闇が
                 時のはじまり時刻み出す
         
その唄はすべての愛をあなたへと
                   唄うがそれは「すべてに愛を」
     
往来の声をかき消す雪粒が
                  降り積む音を響かせ積もる
     
車窓から流れゆく街 眼前に
               ただ日々時が  過ぎ行く如し
           
    6
        
皆のたの   誰の幸福  ふと思う
             その我自身  これが幸福
     
もの思う空一面の春花の
           隙間にのぞく真っ青な空
       
振り返り友の姿をふとおもう
           なにひとつとてわけへだてなき
        
その瞬間(とき)は二度と戻らず過ぎ去りし
           その瞬間(しゅんかん)は気づかぬままに
    
 新緑の溢れる光ただ思う
            これでやっとたどり着けると
  
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1968年      東京の画像
新橋駅前にて。
分類、カテゴリー整理しました[exclamation]  
次回更新2月予定(*_*)

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ルリスズメダイの青い色 [story [物語のスペース]]


   著作権はブログ作成者にあります。すぴか 2次使用禁止。

 

  みくはある休日、いつものマーケットから家にかえってきて、ふと、

      例のお気に入りの水槽の絵をかいてみようとおもいたった。自由画帳に

      青い色鉛筆で、群れをなして動き回るその魚たちの絵をかいてみたが、

      思うようにはいかず、何度かきなおしてもあじやサンマのようにしか

      みえなくてみくはとてもがっかりした。



 どうしたら、あの水槽の魚たちを上手にかけるのだろう?

   みくのもっている色鉛筆や、クレヨンはみんな12色入のもので、
    少し複雑な色をつけようとすると、何色も重ねたりしなくてはならないし、
    色が黒ずんできてしまう。次の誕生日がきたら2倍か3倍くらい種類がある
    色鉛筆がほしいとねだってみようと思った。



やはり、何回書き直しても、食卓にならぶ魚たちを描いているように

なってしまって、うまくいかない。みくは、普段割と絵が上手なほうで

図鑑や本をみて描けば結構上手にかけるはずなのだが、何度絵をかいて

みても、なぜかうまくいかずにみくはすっかり肩をおとした。

    次にあの場所にいくときにはスケッチブックをもっていこうとひそかに誓った。


 マーケットにその水槽がおかれるようになってからもう一年はたっただろうか?

 

    水槽のなかには、ルリスズメダイ以外にもちがういろをしたスズメダイの

    なかまや  ピンクしたハナダイのなかまなんかが一緒にくらしていた。

   ほかにも5センチ前後の小さな魚たちばかりなのだけれどどれもとても
     鮮やかな色をして いる。



 最近になって新しい仲間がくわわった。それは、くまのみのなかまで

  オレンジ色に白のストライプがはいったかわいらしい魚だ。



5匹ほどのその新入りくんたちは、ピンク色のいそぎんちゃくのまわりで

姿をだしたりひっこめたりしながら、いつのまにか水槽の光景にすっかり

同化していた。くまのみは世界に100種類くらいいるそうだ。

みくは以前によんだ図鑑にそう書いてあったことを思い出した。



そして、くまのみはイソギンチャクに共生している。オスとメスとその

ほかに何匹かの稚魚を従えて、ひとつのイソギンチャクに共生しているのだ。

 イソギンチャクは要するにすみかなのだが

  くまのみはイソギンチャクに隠れて外敵から身をまもる。また、

     イソギンチャクをたべようとする外敵があらわれると、くまのみ

     は縄張り意識から外敵を攻撃する。そうして、くまのみとイソギ

    ンチャクの共生関係は成立しているという。まあ、そうはいっても、この

 マーケットにあるこの水槽の中は例外で、この中は平和そのものだ。

  みくは、それをよんだときに、みくたちと同じ人間の家族のようだ、
    と思い、くまのみのことがとても好きになった。なので、
    この水槽にくまのみが新入りで仲間入りしてきたことを嬉しく思ったし、
    親近感をかんじた。

くまのみが登場してすぐ、みくは家に帰ってさっそくスケッチブック

に下書きしておいたくまのみの絵に色を塗った。今回はとても上手に

かけて、その絵はどこからみても正真正銘のくまのみに見えて、

みくはほかの兄弟たちに誇らしげに自慢げに絵を見せび

 らかした。



「今度のは上手にかけたね」

「みくねえちゃんの絵はとてもきれい。」


    みくの弟や妹たちはみんなみくの絵をとても上手だと口々にほめた。

そしてみくは、その絵をベッドの枕もとの壁のところに貼って満足げ

に眠った。



  その夜みくはとても不思議な夢をみた。



 みくは水槽の中らしきところにひとりたちすくんでいた。ところが、

   まったく息苦しくはなく自然な感覚だ。


  おそらく水槽のなかであろうと思われるその場所は、普通の空気中

とはちょっと雰囲気がちがうような感じがする。



ちょうど、岩場のようなところにみくはたっていて水槽のなかは 

宇宙空間のように端っこもわからないくらい広々としていた。



  そして、夜空のように深―い藍色であたりはしんと静まり返っていた。


     くまのみが頭上を飛行船のようにかすめていって、みくはおどろいて

まえのめりになった。よくみると、すこしはなれたところに、ルリスズメ

ダイが群れになってうかんでいるのがみえた。



  みくは、それで自分が本当に水槽の中にいると確信して、

     とてもわくわくしたのだ。なんだかそれは、プラネタリウムで星空を観察し

    ているみたいな感じで、すこし先の方でピンク色にひかっているサンゴの

    ところまですすんでいって、そこにみくは腰をかけた。



 サンゴに腰をかけて、頭上を見渡すと、クマノミやスズメダイ以外にも、

    あまり見たことのない大きな魚や小さな魚が宇宙遊泳でもするかのように

   ゆったりとおよいでいる。



 何種類かのさかなたちは、頭上でちょうど星座のようにゆっくり形をつくりながら、

    泳いでいた。



 魚たちがおよいでいる様はさながら、夏の大三角形のわし座やはくちょう座の

    ようで群れをなして泳いでいる様子はちょうど、星の並びのように見えた。



 そして、魚のからだについている模様が、鮮やかなさかなのからだの色をさらに

    ひきたてるように規則的にならんでいるので、なおさら夏の星空のようだ。



 水槽の中の酸素ポンプから流れ出てくる気泡が、天の川の星の群れや宇宙の 

    ガスやちりのようにぼんやりと、水槽のライトに反射をしていて、きらきらと

    輝いていた。その向こう側に半人半馬の姿をしたいて座の南斗六星の形がみえ

   てくるような気がした。



 みくは水中で砂地を歩くことができた。



 水を手でひとかきすれば、魚たちのように水の中にふわーっと浮かぶこと

   もできそうな感じだった。



 ひとでが、空からおちてきた流れ星のように砂底にころがっているのだ。



 スズメダイのなかまのうすいピンク色をした魚が、むれからはぐれて一匹だけ、 

   そのあたりをうろうろしていた。それはまるで夕空の金星のようにくっきりと

   うかびあがってみえてみくはまるで、じぶんが月面にでも着陸したような感じ

    になって、とても幸せな気分に

 なっていた。



ずいぶん長い間、みくは飽きもしないで月面探検のようにあちこちをあるき

まわったのだ。



両腕をのばして泳ぐように、水を大きくかく仕草をしてみた。すると体が水

のながれにのって地面をすこしだけはなれた。ところが水のながれが強い

部分があって足が砂地からはなれると流されそうになってしまうので、

みくはあわてて足をついて、すこし地面で足を踏ん張った。



 足元にはサンゴの残骸の大粒の白砂が見渡すかぎりひろがっていて、

   みくはいつまでも、 飽きずにあちこち歩き回ったりおよぐ真似事を

   して水槽の中を探検した。



みくの眠るベッドに朝日が差し込んできて

まぶしさにふと目を覚まし、朝がきたことがわかって今までのが全部夢の

中の出来事だと付くと、みくはとてもがっかりして肩を落としたのだった。

それから数日後・・・・・・・・・みくは

 画用紙をひっぱりだして、部屋をあさって折り紙やいろいろな包装紙なんかを

  mあつめていた。

 弟や妹たちはおどろいて、みくにむかって

 「何をしているの?」

 とたずねた。

 「あの水槽の絵をかくんだよ」

 「え、またあ」

 妹たちはすこしあきれて言った。

 「でもこんどはいつもとちがうんだよ」

 「いつもとどうちがうの」

 「できたらみせてあげる」

 みくはのりとセロハンテープをもってきて

 はりきっていた。

  白いクレヨンで、青い画用紙になにやら下書きのような線をかいた。

青い画用紙といっても、すこし紺色がかったような群青のような色の

画用紙だ。みくはいったいどこからその画用紙をさがしてきたのだろう?

それはとてもおおきく横幅だけでも1メートル以上ある。

 みくはその画用紙にサンゴや岩のかたち、そして、魚の形を白いクレヨン

    をつかってどんどん描いていく。

 以前にあつめておいたあめやチョコレートの包み紙がたくさんあったので、

   サンゴの ところにはピンク色の紙を貼りつけ、オレンジや白の包み紙は

    はさみでちょきちょきと切って、つぎからつぎへとはりつけていった。

また、セロファンや折り紙なんかも集めていたものがたくさんあったので、

みくの部屋はいつの間にか道具や材料でやまのようになっていた。

 そうしているうちに、妹や弟が外からかえってきて、みくの絵をみて

   とてもおどろいた。なににおどろいたのかというと、まずその画用紙の

   おおきさにとてもびっくりした。

 「わあ、すごい、こんどのはとても上手」

 妹たちは口々にそういった。

「でもまだ完成じゃないんだよ」

 みくがそういうと、

「なんで?」

 と口をそろえていう。

「ルリスズメダイの色がみつからないの」

「それはどんな色?」

「光にあたると色が変わる濃い青」

「むずかしいねえ」

「うーん」

  土台の画用紙のいろも同じようないろだったが、ルリスズメダイの色は

    もうすこしだけ光沢があってきらきらしていた。それと、光の加減で色が

    変化する。そのことが一番のネックだったが、同時にルリスズメダイの神秘

    的な色合いの象徴だった。

もうすぐ夕食の時間だったので、そのはなしはそれで終わりにしたのだ

けれど、みくはそれから毎日、その青い色にぴったりの絵の具やクレヨン

や、包み紙をさがした。せっかく宇宙のような水槽の絵がもう少しででき

あがるのに、みくの一番大好きなその青いいろだけがなかなかみつからない。

 1週間くらいたっても、ちょうどよいものがみつからない。みくは

    しばらくの間、暇があれば部屋の中を画材にちょうど良いものをさがすために、

   あちこちひっくりかえしていた。けれど、結局みくはその色をさがすのをあきらめ

    ていったんはしかたなくベッドのくまのみの絵といっしょにならべてその絵を

    はることにした。

「もうできたの?」

 兄弟たちがのぞきこんだが、

「けっきょく、青い魚をあきらめたんだよ」

 とみくが残念そうにいうのをみて

「でも、とても上手だよ」

 と妹がいった。

「ありがとう」

 とみくは、ベッドにはいって眠りについた。

 残念なことにルリスズメダイだけがその絵の中には存在しない。

 

みくは、また、日曜日になると飽きもせずにあの水槽の前でじーっと

水槽を眺めている。

 そして、あのルリスズメダイの姿をみるたびにがっくりしていた。

 帰りの車のなかで、みくのおとうさんは、

 みくに、水槽のことをきいてきた。

 みくは、水槽が気に入って水槽の絵をかいたが、上手にできなかったと

    話した。

それと宇宙探検のようにあのおおきな水槽を探検した夢をみた、

という話もした。

そしてそのとき夢の中にでてきた景色がとにかく信じられないくらいに

美しかったんだ、という話をした。

 みくが話終わると、おとうさんはみくに一冊の本を手渡した。

   ほかの兄弟やおかあさんがみくががっかりしているのに気がついて、

   おとうさんにこっそり話しをしていたのだ。 

 その本は表紙にルリスズメダイの写真がおおきくのっていて、

「わあ、すごーい」

 とみくはとてもうれしそうな声をあげて喜びんだ。

 みくがつぎの絵をかくときには、きっといままでより何倍も

上手に水槽の絵がかけるようになるはずだ。なぜならその図鑑があれば

同じような色の画材を探すこともいままでよりももっと簡単にできるようになる。

そして、こんどこそ、ルリスズメダイの青色にとてもよくにている理想の青い画材

もみつかるはず・・・・・

End

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たんちゃんのゆきぐも  1 [story [物語のスペース]]

 

「たんちゃんのゆきぐも」

 

ぼくたちのこどものこどもが生まれるくらい未来の話。

 その大きな家はまちのはずれにあって、赤い屋根の大きな家で、

 遠くからでもとてもよく目立つ。

 庭には白い中型犬がいて犬小屋があった。

 そうくんは足早に学校から帰ってくると、犬小屋のことなんか気

 

 にもとめず、一目散に玄関をあけて家へと入った。

 その日はまだ冬の厳しい寒さが訪れる直前で、けれども雲はいつ雪

 が落ちてきてもおかしくないほどに厚くたれこ

 めていた。

 最近では人工知能をもったロボットが一台

 くらい家にいるのが当たり前で、ペットがわりにそれらを飼っている

 家庭も多い。

 ロボットは餌代がかからないことがとても人気になっている理由で、

 故障することもあるのだが、みんなとても大事にロボットを扱っていた。

 

 そうくんは、三年生になったお祝いに、はじめてのペットロボットを買っ

 てもらった。

 それはとても金額の高いもので、おもちゃやで購入してもらったのだ。

 そのロボットにはSP100という製品名

 があるのだけれど、そうくんはそれとは別にたんちゃんという名前をつけた。

 からだはメタリックシルバーで、かわいい

 足が二本ついている。前後に足を動かすと、するすると動きだす。ほんとう

 に歩いているみたいだけど、関節はないので足はただ前後に交互にうごくだけ

 実際にはキャタピラみたいなものがついているので

 そんなに早くはないけれど、動きはスムーズそのものだ。

 腕は、マジックハンドのような形状になっていて結構自由自在にうごかせる。

 からだには、真ん中あたりに緑色の星マークがぐるっと一周、合計5か所に

 デザインされていて、人間でいう、心臓のあたりには赤と黄色のランプがつ

 いている。

 赤いランプは不機嫌のサイン、赤の点滅は怒っているサインだ。

 黄色はご機嫌な時にピカピカと点滅する。感情センサーの働きで、そういう反応をす

 るという優れものだ。

 感情センサーは、言葉の種類ではなく、人の声の調子によって、声をかけた人の感情を

 判別するという、とても高度な技術を応用したものだ。

 胴体の上にまたボールのような形の頭がチョコンとついていて、軽くぐらぐらと動いた

 りする。

 目の位置には、特殊なレンズがゴーグルをつけているかのようにセットされており、

 画像で人間を識別する。200人分の記憶ができる。

 言葉を話すこともでき、ごきげんサインの黄色ランプのときは、あいさつや会話を

 することもできる。

 

 

 

 たんちゃんのすごいところは外国語をはなしたりできることだ。たんちゃんは、

 その日の気分でなのか、そうくんが行ったことのない国の言葉で話しかけてく

 ることもあって、そうくんは、外国語で話しかけられると毎回びっくりしていた。

 でもしょせんはロボットなので、そうくんが言っている言葉が理解できないときな

 どは、理解不能に陥ったたんちゃんは不機嫌にくるくるとまわりだすのだ。

 

こういう種類のロボットは、ずいぶん昔からあったのだけれど、そうくんには、

たんちゃんについている感情センサーというものがどういうものなのかよくわから

なかった。

 ただ、人間の病気などをなおすために体に機械を埋め込んだり、コンピューターの

 最新技術のなかに人工知能というものがあって、人間の脳細胞をまねてコンピュー

 ターのなかで電気信号を増殖させていって、それを応用して、判断したり、情報処

 理したりするという技術があることも有名なことだ。それは、そうくんも、何度も

 テレビでみたことがあった。

 だけれど、このたんちゃんのように人間の感情と同じ反応をするなんて、どんなセ

 ンサーなんだろう、とそうくんは疑問にかんじていた。

ところが、そうくんの疑問はどこ吹く風でたんちゃんはちゃくちゃくと、言葉を

判別していろんな反応を覚えていく。

 そして、たんちゃん自体は、ペットのような感じで日に日に家になじんでいった。

 そして、いろんな反応をするたんちゃんはロボットとはおもえないくらいにとても

 愛らしくすぐに家族の人気者になったのだ。

 

 そうくんの部屋には、たんちゃんがやってきた日以来、ある一枚の紙切れが貼って

 あった。それは、たんちゃんを購入した時にたんちゃんが梱包されていた箱の中に

 説明書と同じ紙に印刷されていて、そこには、アイザックアシモフのロボットの三

 原則が引用されて書いてあった。

 

 

時間がたつのは早いものでこのロボットを購入した日からもう一か月ほど経っていた。

 家で飼っている白犬のぶーちゃんは、ロボットのたんちゃんをみかけるといつも猛然と

 吠え出す。ぶーちゃんに吠えられると、たんちゃんは赤いランプを点滅させて、しばら

 くすると、音が聞こえるのと反対向きに逃げ出した。

 たんちゃんは主人であるそうくんの名前はいえるようになっていた。そうくんの

 名前を呼ぶときは、黄色いランプはご機嫌を示す点滅だ。

 たんちゃんはあまり外にはでられない。雨にぬれたり、水がかかったりすると、

 故障することがあるからだ。

 なかなか外に出られないたんちゃんは、いつも学校からそうくんが帰ってくるの

 を玄関のあたりで待っていた。

 そしてそうくんが出かけるときはやはり玄関までキャタピラを動かして見送りに

 出てくる。

 

 たんちゃんが家にきてからというもの、そうくんは学校が終わると友達と遊ぶ

 約束もしないで、目散に家に帰ってきてたんちゃん

 とあそぶ。それに飽きると、ぶーちゃんを連れてたんちゃんとじゃれて遊んだ。

 その日はたんちゃんに飾り付けをすることにした。

 たんちゃんは、ゆきだるまみたいな雰囲気があるので、さっそくバケツのよ

 うな形をした箱に青い絵の具で色をぬり、たんちゃんの帽子をつくった。

 それをかぶせて

 「できたよ」

 と声をかけると、たんちゃんは黄色ランプを点滅させて、嬉しそうにした。

 つぎにそうくんは、昔おかあさんにつくってもらった緑色のマフラーをもっ

 てきて、たんちゃんの首のところにネクタイのようにまきつけた。

 「どう?」

 そうくんの声にまた、黄色ランプを点滅させてとてもご機嫌そうだ。

 緑色のマフラーと緑色の星形マークがとてもよく似合っている。

すっかり雪だるまのように変身したたんちゃんは、とてもかわいらしくなった。

ぶーちゃんのところまでたんちゃんをつれていって、雪だるま風ロボットらしく

外で遊ぶことにした。

そうくんの家の庭を遠目に眺めたら、雪だるまが庭で遊んでいるように見えただろう。

手のかわりのほうきはささっていないけど

 色といい、形といい、飾りといいどこからどうみても雪だるまと犬がじゃれている

 ようにみえるはずだ。

 キャタピラの足で庭をぐるぐるまわりながらぶーちゃんとそうくんとたんちゃんは、

 日が落ちて暗くなるまでいつまでもあそんでいた。庭のきんもくせいはもうほとん

 ど花が落ちてしまい、オレンジの小さな花があちこちに散乱していた。

著作権はブログ作成者にあります。2次使用禁止

 

19740911071

 

 


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たんちゃんのゆきぐも 2 [story [物語のスペース]]

 

 日に日に寒さが増していって、時間はあっという間に流れてクリスマスも

 もうじきになっていた。

 たんちゃんは、相変わらず冬支度の雪だるまスタイル。最近では少し遊び

 飽きたのか、そうくんも友達を連れてきてたんちゃんとやり過ごすように

 なっていた。

 たいていのともだちは、そうくんの家にきてたんちゃんをみると

 「最新式だね。すごいね。」

 と感心した。

 たんちゃんの機能の説明をしてあげてから

 みんなであそぶと、いつもすっかり日が暮れて友達はそれぞれの家に帰る時間

 になっていた。

 なかには、たんちゃんを気に入って何度も何度も遊びに来る友達もいた。たい

 ていの友達はたんちゃんの冬支度の衣装をすごく気に入り、なかには自分の

 マフラーや帽子をかぶせたがる子もいた。

 だけれど、そうくんの友達といってもそんなにたくさんいるわけではないので

 少しすると今までほど友達が入れ替わり立ち替わりすることもなくなって

 いった。

 

ある日のこと。ちょうど前の日の日曜日に

 庭の垣根にクリスマスのイルミネーションを飾り付けたのでまたぶーちゃん

 とたんちゃんとそうくんで庭で遊んでいると、郵便配達の人が郵便物を届けに

 やってきて

 「うわあ、びっくりした。雪もふっていないのに、雪だるまが現れたかと

 思った。」

 と大げさに驚いた。たんちゃんは黄色いランプを点滅させてご機嫌だ。

 冬休みが近づいたころのこと。最近ではそうくんはたんちゃんを相手に

 おしゃべりをして、たんちゃんの反応を確認することに凝り始めていた。

 たとえば、たんちゃんを怒らせるためには

 どんな言葉をたんちゃんに向かって言うと、たんちゃんはおこりだすのか?

 大声をあげて怒ったふりをしたり、鳴きまねをしたりいろいろな方法を試し

 た。

 知らない人や慣れない人の声に、よく赤ランプが点滅することはわかっていた

 けれど。

 試してみていろいろわかったことがある。

 大声をあげて怒っても、泣きまねをしても半分くらいの確率でしか赤ランプは

 点滅しないのだ。

 ところが、そうくんが約束を破ったり嘘をついたりすると、たいてい赤ランプの

 ご機嫌斜めサインの点滅をする。そこで、わざとたんちゃんに嘘を教えて、

 そうくんが嘘を言った時には、赤いボールを放り投げて、たんちゃんがそのこと

 を覚えるかどうか、ゲーム形式で何度も何度もボールを放り投げて反応を確かめた。

なんどか繰り返すうちに、嘘をいわなくても、赤いボールをたんちゃんに放り

投げるだけで赤いランプを点滅させるようになった。

 そのことに気が付いた時にはもうクリスマスも間近になっていた。

 そうくんはクリスマスにたんちゃんを驚かせてやろうとなにかすごい嘘でも考えて

 やろうとおもっていた。

 ぶーちゃんの散歩をしながら、そうくんは

 必死でたんちゃんにつく嘘ネタを考えていたのだ。

 その日はとてもよく晴れていたけど、北風が強くそうくんはとても分厚いコート

 をきてぶーちゃんと散歩した。

 イルミネーションを点滅させた垣根や大きなツリーにポインセチアの赤い花が

 街のあちこちの家に飾られていて町中クリスマスの雰囲気になっていた。

 クリスマスイブは、天気予報では少し雪が降るかもしれないといっていた。

 そうしてクリスマスイブの当日がやってきた。

 そうくんはたんちゃんにクリスマスプレゼントを用意していた。

 赤い包装紙に銀のリボンがかかったその箱は、たんちゃんのためにおかあさんに

 たのんで編んでもらった新しい青色のマフラーが入っていた。

 そうくんはあさからご機嫌で、クリスマスケーキが食べられる夜になるのを

 いまかと心待ちにしていた。

 空は白く薄暗い雲が厚く厚くたちこめていて、いまにも雪が降り出しそうな

 気配だった。

 

 おかあさんは、朝からクリスマスの準備に大忙しでそのせいで

 「自分の部屋をきれいにしなさい」

 とそうくんは、何度も何度も注意された。

 なんとなく不機嫌になってたんちゃんへの嘘攻撃を一刻もはやく実行しようと、

 さっそく作戦を開始することにした。

 たんちゃんを自分の部屋まで連れてきたそうくんは、

 「たんちゃんはクリスマスプレゼントほしい?」

 と声をかけた。

 たんちゃんはそうくんの言っている意味をわかっているのか、わかっていないのか、

 キャタピラを動かしながら、そうくんの部屋にはいってきた。黄色ランプをぴかぴ

 か点滅させている。

 たんちゃんはそうくんの前までくるとストップした。

 たんちゃんの目の前に椅子をもってきて、そうくんはそこに腰をかけた。

 「ねえ、たんちゃん、今日は何の日かしっている?」

 たんちゃんは返事をしないが、黄色のランプが返事のかわりだ。

 たんちゃんがご機嫌ランプをピカピカ点滅させているうちに、また質問をした。

「たんちゃん、クリスマスプレゼントほしいよね?」

「クリスマス?」

 おうむ返しするたんちゃん。

「クリスマスの日にプレゼントがほしい人は

 玄関の前でサンタクロースがくるまでまっていなきゃいけないんだよ」

 そうくんは嘘をいったが、たんちゃんのランプは消えていた。

 「今日は天気予報では雪が降ってくるかもしれないといっていたけど、たんちゃんも

 クリスマスプレゼントがほしかったら、玄関でサンタクロースがプレゼントをもって

 くるのをまっていないといけないんだよ。」

 そうくんは、ひきつづき作り話をして聞かせると

 「ゆき?」

 とたんちゃんの返事。

 そうくんは、台所の冷蔵庫までいき、コップに氷をいれてそれをたんちゃんの

 ところまでもってきて、たんちゃんにむかって、こういった。

「こういうのが、空からふってくるんだよ。」

「それ、つめたい?」

「そうそう、とてもつめたい。」

「サンタクロースは?」

「プレゼントを持ってくる人だよ。」

 たんちゃんはまるで考え込んでいるように立ち止まっているので、そうくんは

 椅子から立ち上がりたんちゃんを玄関まで押して行った。

 たんちゃんはおしてあげると、キャタピラが動き出して前に進む。だけど不機

 嫌なときは押してもまったく動かないこともあった。

 今日はまだそれほど機嫌は悪くなく、玄関までスムーズに進んだ。たんちゃん

 はサンタの話が作り話しだということまでは理解ができていない。玄関のドア

 をあけて、ポーチのところにたちゃんをだして

 

 「たぶん夕方にくるよ。」

 といってばたんとドアをしめた。じつは、そうくんは、たんちゃんにうそを教えて

 怒りだしたら、その時に、

「パンパカパーン」

 といったかんじで、クリスマスプレゼントを渡して驚かせようとしていた。

 それから、一時間以上たんちゃんはポーチでまちつづけた。

 そうくんは家の中にはいると、おかあさんに叱られないように。部屋の片づけをはじ

 めていた。きょうはクリスマスなのに面倒だなあと思っていた。

 「あーあくたびれた。・・・」

 というと、片付け終えてベッドに転がってふてくされて眠ってしまった。

 冬の空は相変わらず重苦しく、北風がそうくんの部屋の窓をこんこんと絶えず叩く。

たんちゃんのことをすっかり忘れて、そうくんはベッドにごろんと転がって寝入って

しまった。

 

 夕方になってお母さんの呼ぶ声が聞こえてきた。

「誰か来たみたいだから、玄関にでてくれる?」

 その声にびっくりして、あわててベッドから起きだして玄関まで急いだ。

「郵便です。」

 郵便屋さんが、郵便物を手に持って玄関にたっていた。

 そうくんは郵便物を受け取ると

 「ごくろうさまでした。」

 といって玄関をしめようとして、たんちゃんがポーチにいるのを思い出した。たんちゃんを

 みると、赤ランプを点滅させている。

「たんちゃん、おこってるの?」

 そうくんはたんちゃんにきいた。

「ゆきがまだおりてこないよ」

 とたんちゃんがいった。

「ごめん、たんちゃん、暗くなってきたからもう家の中にはいろうよ。」

 とそうくんがいうと、

「ゆきがおりてくるまで、ここにいる。」

といって、まったくいうことをきいてくれない。

「ぼく、家の中にはいるよ!!」

 少し怒った口調でたんちゃんにいった。

 たんちゃんが、あまり雪のことばかり気にするので、そうくんは、じぶんがクリスマスの

 いいかげんな作り話をきかせたことをすっかり忘れてしまい、たんちゃんにただあきれてク

 リスマスプレゼントのことも忘れてしまっていた。

 家の中にはいってからもテレビをみたりゲームをしたりしながら、時折たんちゃんの姿

 をガラス越しに確認していたが、あいかわらずいつまでも、玄関で待ちぼうけをしてい

 るたんちゃんの姿に急に胸がくるしくなってきて、それでようやく、じぶんがたん

 ちゃんに作り話をきかせたんだということを思い出した。作り話だったことをたんちゃん

 が理解しているかどうかはわからないけれど、たんちゃんが機嫌を損ねて、くるくるま

 わって赤ランプを点滅させたりするもんだと思い込んでいたそうくんは、

「まだ、雪が降ってこない」

 とまちぼうけするたんちゃんの姿に、うそなんかつかなければと、心の底から

 後悔した。

たんちゃんは、サンタのことはすっかり忘れている様子で、いまさらたんちゃん

のところまでいって、赤ボールを投げて嘘を白状しても心苦しいので、ベッドに

はいり布団にくるまって眠ってしまった。

目が覚めると朝になっていた。

そうくんはせっかくのクリスマスの豪華な食事にもありつけずに、あのまま朝

まで眠ってしまった。

朝から太陽の光はさんさんと降り注いで、昨日のことが嘘のように晴れている。

ダイニングにいくとたんちゃんは、真横のキッチンの隅でさびしそうにしていた。

 そうくんはきのうの出来事をすぐにおもいだしたけれど、たんちゃんの胸のラン

 プは点滅していなかったので、なにもなかったかのように

「おはよう。」

 と声をかけた。

 そして、きのうの作り話にふれないように

「きのう、雪は降ったの?」

 ときくと、

「わからない。」

 と、なんだかいつもの声の半分くらいの小さな声で答えた。

 たんちゃんはゆきをみられなかったことを

 とても残念に思っている。

 ぼくはたんちゃんに、嘘の合図の赤ボールをポーンと放り投げた。たんちゃんの

 胸の赤ランプは点滅した。

 たんちゃんは雪が理解できずじまいでショックをうけていた。

 そして、その上赤ボールを投げつけられたので事態が理解できずに玄関のあたりを

 いったりきたりくるくると、まわりはじめたのだった。そうくんはたんちゃんにむ

 かってこう言いました。

「ごめんよ、たんちゃん。たしかにたんちゃんをからかうために少し嘘をついたけど、

 昨日は天気予報では本当に雪が降るといってたんだよ。」

 そうくんは言い訳をした。

 そうくんは、たんちゃんに用意しておいた

 クリスマスプレゼントを思い出してそれを手渡してこういった。

「たんちゃん、ほんとにごめんよ」

 そして、

「来年は、また違う色のマフラーをおかあさんにたのんでみるね。うそじゃないよ。

 かならず頼んでプレゼントする。約束だよ。」

 今日はあさから犬小屋のあたりでぶーちゃんがきゃんきゃんと一人遊びをして、な

 にかにじゃれついている。

 そうくんは、たんちゃんのゆきだるまになった姿を写真にとることを忘れたのを

 おもいだし、カメラを探しに倉庫のほうにかけだしていった。

 * 著作権はブログ作成者にあります。

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1 もし私が絵かきだったら、100年残るような大作になるはずだったのに!!(タイトル) [story [物語のスペース]]

やっと、掲載完了しましたので、順番にレイアウト組み替えました。

まあ、凡庸な内容かもしれませんが、読んでみてください。

児童文学ばっかだと、子供扱いされてしまい、わたし的には

今までの作品の中でも結構面白いのがたくさんあるんだけど、

それはまた、いつか。お目見えできるようになることを祈ります。

で、45年ぶりの大雪直後で、しかも、11日です。本日。

私の誕生日も11日です。(今月ではないが)

よろしく。 よんでやってください。

この作品はフィクションです。著作権はブログ作成・管理者にあります。 

2次使用禁止

まだ、明けきらぬ朝方の暗闇の中で、脳天から体を貫くような痛みと苦痛で目が覚める。

朝の光までには、まだ、少し時間があり、しんと静まり返っているあたりに

水道の蛇口からポタポタと落ちる雫の音が響き渡る。

蛇口をひねり、コップにくんだ水を飲み干してから、こめかみのところに走る

痛みにテーブルに放り投げてあったアスピリンの錠剤を口の中にいれ噛み砕き

ながら、もう一度水で流し込んだ。頭痛持ちの私は、月に幾度か

こんなふうに朝を迎える。そのため、手元から頭痛薬を手放せずにいた。

テーブルの上には、財布やら時計やらCDなんかが転がっていて、そのアルバム

ジャケットにはヨーロッパのどこかのストリートが映し出されていて男性がすれ違っ

ている写真が写っていた。

そのころ、まだ私は20代で、そのジャケットは、イギリスのロックバンドのアルバム

ジャケットで、英語でモーニンググローリーというそのアルバムの訳は、朝方に浮かぶ

巻雲のことだという。それは壮観なのだという。

オーディオの目覚まし機能で朝の7時にはここのところ、そのイギリスのバンドの

イントロが流れるようにセッティングしてある。高校生のころ、マイブームで、

この目覚まし機能にジョンレノンのイマジンをセッティングしていた時もあった。

それはそれで、最近はずっと、そのイギリスのバンドのイントロが朝から

ジャカジャカ流れているのだけれど、

その感じこそ、タイトルのニュアンスどおりに明け方の壮観のようなものかもしれなかった。

この頃私は、雑誌の原稿書きの小遣い稼ぎをしながら、CDショップでアルバイト

をしていて、まだ、音楽のデジタル処理技術が今のように発達していない時代で、

毎週のオリコンのチャート変更とCDのレビュー書きに日々おわれていた。

そういうふうにして、得た稼ぎで日々暮らしていた。

その部屋には、テーブルと原稿用のデスクが置いてあって、ベッド替わりのロフトと、

ばかみたいに日当たりの良い大きな出窓があった。

そこには、ガラスの一輪挿しにひまわりの造花が飾ってあった。

春のやわらかい日差しにうとうとしながら、

 

とかした水のようにハイビスカスの赤い花弁の色で染まっていた。

そもそもは、幼馴染の結華が渋谷の洋服屋に高校卒業と同時に就職して、

都内に一人暮らしを始めたので、便乗して働く場所を探して家をでたのだ。

結華と同じく、大学に行かなかった私は、出版社でエディターになるのは

難しく、だけど、勉強をしてまでそういう仕事に就くほどの根性はなく、

親は半ば呆れているのだが、それでも私の心配をして、仕送りやら、食料やらを

次々送ってくる。この放蕩娘のために。

結華と私は近場に住まいを構えたので、割と頻繁に行き来をしていて、

申し訳程度の結華の住まいの台所ではまともに何かを作るなんて、

とても難しくて、私の部屋の一畳くらい有るカウンターキッチンを使いに遊びにやって

くるのだ。

そのカウンターには、料理の本がいくつも立ててあって、中でも、

イタリアンのその本をとても気に入っていた。その日も結華は、休日の私

のもとにやってきて

「お願いがあるんだよ」

と、ショッピングバッグを、ドスンと玄関に置いた。

結華は赤いチェックのネルシャツを着ていて、ストレートでショートの黒髪

は日本人のそれで、赤い洋服によく映えた。

「アウトレットなんだけど、もらってきたから着てみてよ。」

と、別のビニールバッグを渡した。

こんなものをこんなにたくさんいただいていいものか?と思ったのだけど、

とにかく、在庫が掃けないそうで、ありがたく頂いておいた。ショッピング

バッグを開けると、そこには、パルミジャーノレッジャーノの500gくらいの塊と、

フランス産の炭酸水と杏露酒の原液と、洋梨が3個ほど入っていて、

「なんで、こんな取合せなの?」

と聞くと

「うん、美味しそうだから」

と彼女はいった。これは太るだろう、と思いながらも

チーズおろしの器械をキッチンの引き出し奥から引っ張り出してきて、

パスタボトルには、まだたくさんパスタが

保管されているのを確認した。

「じゃあ、簡単にペペロンチーノでもいきますか?」

わたしは台所に立って、早速鍋に湯を沸かして

キッチンタイマーをセットした。

結華は私が台所に立っているあいだにオーディオデッキを

いじくり、BGMを流した。

「なにこれ?」

と私に聞く。 

「なんだっけなあ、それ。最近出たばかりのバンドだよ。ジャズ風のピアノ

でアレンジした曲。」

「アンチョビある?」

結華は私に聞いた。

「ああ、あれ大丈夫?じゃあ、いれようか?」

冷蔵庫から瓶詰めのアンチョビの使いかけを取り出して、フライパンに放り込んだ。

10分ちょっとで、ガーデンテーブルの上には、杏露酒の炭酸割りと、

ペペロンチーノと洋梨が並んだ。

おもむろに結華が口を開いた。

「私、結婚するんだよ。」

パスタをフォークで丸めて口に放り込むとやけどするくらいの温度でアンチョビ

の香りが口いっぱいに広がる。

「彼と?」

「うん」

結華は、こちらに出てきて3年ほど経っていた。

私は、少し遅れて出てきたので、2年半くらいだった。

彼女は同じ会社の同僚ともう一年以上はお付き合いをしているのだけれど、

その男性と結婚するらしい。

私はというと、実は、同じくらいにやはり別の男性と知り合う機会はあったが、

結婚なんて考えたこともなかったので、なんとなく大した時間が過ぎない

うちに音信不通になってしまった。

「転勤するって言うから、入籍をして一緒についていこうかと思うんだあ」

「すごいイイじゃん、結婚式は?」

「簡単に、パーティーをすると思うよ」

「こっちで?それとも地元に帰る?」

「こっち」

BGMは、ピアノの軽快なリズムが心地よく流れていてその音をバックに

「仕事はどう?」

と結華は聞いた。

「まあ、原稿料は安いからね。だけど、ショップの方は勤務時間

も長いから、まあまあ。」

「あ、あれ、書いたの?モーニンググローリーだっけ?かっこいいやつ」

「ああ、あれね、輸入盤まで買ったけど、訳が悪いのかなあ?」

この日のことは今でもよく覚えていて、おそらく彼女が結婚する前に最後に語り明かし

た夜だったと記憶している。

続きは、新作記事の項目  「2 もし私が絵かきだったら・・・・・」から入ってください。

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2 もし私が絵かきだったら、100年残るような大作になるはずだったのに (タイトル)  [story [物語のスペース]]

時は、ものすごいスピードで私の元を駆け抜けていく。都会の喧騒のなかでは、

一度であった人達も再び出会ったときには名前すら思い出せないこともよくあった。

その年の年末になり、両親が、とにかく年末に実家に顔を出すようにとしつこく

催促をするので、12月半ば過ぎの寒い日に1年半ぶりくらいだろうか、

故郷の土を踏んだ。

あたりは変わり映えしない風で、年末なのに故郷の街並みは割としんとしていた。

「まあ、あんまり変わらない様で安心したわ。」

母はそう言った。

「連絡も、よこさないからどうしているのかと気が気じゃなかったんだけれど。」

「父さんは?」

「父さんには、こっちには頻繁に戻ってきていると嘘を言ってあるから、

なんとか口裏を合わせてね。」

という母の言葉に私はうなづいた。

翌日にはすぐに都内へ戻るのだけれど、家を出るときに残してきた荷物の中で必要

なものだけをもって出る用意をした。

その中には、昔のアドレス帳や、アルバム、最近は聞いていない音楽のCDやらな

んやら、旅行バッグ一つ分もないくらいだったが、とにかくバッグに詰めて、

荷造りをした。

 幼いころから使っていたその部屋には、2年という空白の月日が、時間の経過に

伴って生じる一種独特のゆがみのようなものを作り出していて、私がかつてそこ

で日々生活をしていたということが信じられないような、異質な空気を醸

し出していた。そう、かつてそこで、日々を送っていた幼い私自身はとっくに

その空間では死者のようになっていて、この部屋は、いうなれば過ぎ去った時間

そのものだった。

親というのは、子供がどんなに大きくなっても、子がかわいいもので、母は、

私の帰郷に合わせて、駅前の和菓子屋で私の大好物の茶まんじゅうを買って

待っていた。

私が翌日の夕方に都内へ戻ることを話すと、母はとても寂しがって残念がった。

私は、荷物の整理を終えて、自分が昔使っていた学習机の椅子に腰をかけた。

母は、掃除を欠かさなかったようで、埃なんかはまったく溜まっていないのだ

けれど、この部屋には、長いあいだ人が使っていない独特のカビ臭さのような

空気が漂っていて、その匂いを嗅いでいるうちにいつのまにかウトウトと

うたた寝をしてしまった。

目を開けると、そこにはいつから使われていないのかわからないくらい古びた、

ウッド調の机がドンと置いてあって

その木造の古い床は、歩くとキシキシと音をたてた。

私は、なぜ急にそんなところにいるのかがまったくわからず、そこがどこな

のかもわからなかった。

いつの時代にできたものなのだろう?そのくらい古めかしい木枠の窓を

開けると、外には広い庭が広がっていたが、そこには誰もいなかった。

耳をすますと、今にもオルゴールの音か何かが聞こえてきそうなそんな風景で、

ただ私は、その景色をいつかどこかで見たことがあるような、そんな確信だけが

あり、でも、いくら記憶をたどっても、その景色がどこなのか、記憶が

一致しなかった。

とたん、どうしても、そのあたりに誰か人がいてここがどこなのかを教え

てくれるような気がしてあたりを探し回った。

ところが、そこにはいくら探し回っても人影らしきものはなく、

息を切らせて走りまわるうちに、心臓のあまりに激しい

鼓動で目が覚めた。

夕方過ぎに父親が電話をいれてきて、年末で忙しく、夜遅くなるという

ことを母に伝えた。私は、久々に母親の作る

手料理を食べて、安心しきってしまって、ずいぶん早い時間にリビング

のソファで横になってしまった。

父親の帰りにも気づかず、朝まで、そのまま寝入ってしまい、目が覚めた

時には、父親はとっくに家を出たあとだった。

それでも、リビングで寝入ってしまっている私の姿をみて、父親は安心したようだった、

と翌日の朝に母は私に言った。 

かえり支度をしていて、昔に着ていた衣類の中から、まだ着られそうな

ものをいくつか持ち出し、ついでにその中のずいぶん色の落ちた細身

のジーンズを履き、黒のモヘアのセーターを着込んだ。

夕方、母が買い物に出るついでに、私も家を後にした。一緒にバスに

乗り込み、母の横に並ぶと母はいつの間にか、ずいぶん小さくなった

ように感じられた。そして、私が幼い頃に一緒に

長い時を過ごした母の記憶よりは随分と老け込んでしまった。

駅の改札へ向かう私の後ろ姿をいつまでも、見送り続けて、母は駅前に

立ちすくんでいた。

私は、少し気恥ずかしいのを隠しながら、ゆっくりと手を振った。

ホームに吹き付ける北風は頬を刺すように冷たく、年末の喧騒は本当に

慌ただしかったが、私は、この慌ただしさをなぜか心の底から愛おしく

思い、また、新しい年が迎え

られることに感謝をした。

著作権は ブログ製作者、管理者にあります。

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3 もし私が絵かきだったら、100年残るような大作になるはずだったのに!! [story [物語のスペース]]

 2月14日セントバレンタインデー

ローマ帝国の時代2月14日はユノの祝日とされ、ユノは、

家庭と結婚の神様だという。

ローマ帝国の皇帝クラウディス2世は、兵士の指揮が下がるという理由で、

兵士の婚姻を禁止したが、キリストの司祭ヴァレンティヌスが隠れて結婚を

させ、そのことで、迫害を受けて、ユノの祝日にあえてこの日を選んで

処刑を行った、という。

そのことを知ってか知らずか、このユノの祝日の2月14日には、世界各国で、

愛の誓いがたてられるという。

結華は、一般的な尺度で、この日にウェディングパーティーをすることに決めた。

FAXで、パーティー会場と打ち合わせ場所が送信されてきた。

「春には、引っ越す予定なんだよ」

呼び出された喫茶店には、結華の結婚相手の嘉人くんと、その彼の友人だという

田野さんという男の人が待っていた。

私が席に着くと早速結華は、だいたいの進行と分担や、取り掛かる準備について、

手早く説明をし始めた。

田野さんは、嘉人くんよりこう言うとアレだが、老けて見えたので、年齢

を聞くと5歳も上だという。結華は

「残念、田野さん彼女いるんだわ。」

といい、私を冷やかした。

「いや、だから、私のことはべつにどうでもいいから」

まったく、余計なことばかり言う。

転勤先は大阪だといい、彼の仕事と、実家の都合で、もう住む場所を

探す段取りに入っているという。

田野さんは大阪の地理にわりと詳しいらしく、嘉人くんとふたりで、

大阪の話に花が咲いていた。

その喫茶店は、ずいぶん前に結華とふたりで来たことがあり、薄暗い階段を

下りた地下にあるその店は小さいボリュームでピアノの演奏が流れていた。

もう、パーティー当日までは、1ヶ月を残すばかりで、小道具や音楽なんかは、

全部私が引き受けた。結華は

「結婚前の最後のわがままで、楽器の演奏をバックに歌いたいんだよ。」

と結華は切り出し、

「そのために田野さん呼んだんだよ」

といった。

田野さんは、ドラムができるらしい。

私と、別にもうひとり昔の同級生でギターを弾ける男の子が、パーティー

に出席する。

その子のあだ名は太郎といい、私は昔ギターもベースも出来たので、私がベースを

演奏することにした。太郎に会うのは久々だったが、昔、近所のスタジオで

当時流行ったグランジロックのモノマネなんかを随分演奏した。なので、

太郎は絶対参加してくれる。

結華のリクエストでビートルズの「抱きしめたい」を演奏することで決まった。

「アメリカのハイスクールの卒業パーティーみたいなのがいいね。

ああいうの映画の中だけみたいじゃん。あれ、一度やってみたいよね。」

 

結華はそう言った。

楽器の搬入と、リハーサルを少ししたいので、開始時間の前に

集合時間の段取りを決め、私は、先週購入したばかりの新しい手帳に、予定と、

当日までに用意するものをメモをして、仕事に向かうためにほか

の3人より先にその薄暗い地下室の

テーブル席を立った。

きは、また、2月には頑張ります。

(´Д`;)ヾ ドウモスミマセン

この作品の版権はブログ作成者・管理者にあります。

この作品はフィクションです。

19740911111


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4 もし私が絵かきだったら、100年残るような大作になるはずだったのに。 [story [物語のスペース]]

結婚パーティーの前日には、準備はおおかた終わった。


当日は小雨模様で、パーティーには40人ほどが集まった。

会場は、静かな雰囲気で、合間には、ムーディな感じのピア

ノの演奏がBGMで流れていて、田野さんが  

二人の馴れ初めをインタビューしたり、

なごやかに時は過ぎていった。

そして、小一時間ほど過ぎたころ花嫁の最後のわがままの例の

余興が幕を開けた。

パーティー用のドレスでマイクスタンドの前に、結華は堂々と立った。

ギターのイントロにあわせて、曲が始まった。

太郎は黒いスーツで、私はパンツスタイルで、田野さんは、

サラリーマンのような、スーツ姿であったが、

「抱きしめたい」のまあ少し雑な感じの演奏は、会場全体を振動させるように響き、

出席者たちは曲の後半にはダンス始めるものも居て、場はおおいに盛り上がった。

結華の唄う姿はミスマッチだが、

ぶっっちゃけた感じが物凄く良くて、紙テープがアチコチに飛び、クラッカーの音が、

曲の終わりにタイミングを合わせるようにパン、と響き渡った。


夜の10時過ぎ、1次会のパーティーを

終え、残った10名位の一団が、2人が行き着けの店にたどり着いた。


雨は相変わらず降り続いていたが、店内は結構賑やかで、薄暗い店内で大人数

用の席につくと、凍り付きそうな指先をさすっては暖めた。中には、ちゃんと

同級生4人ほどで、宿泊先を確保してきた

メンツもいて、随分長い時間いろいろな話しで盛り上がった。

その日、パーティーの終わり間際に結華がふと発したあの何気ない言葉が、

今も忘れられずに、時たま思い出すことがある。


「まさか、こうなるとは夢にも思わなかったの。これから先の自分の人生が

夢物語みたいに感じるのよ。」


そういう彼女は、今までの私が知っている彼女とは違い、白く光り輝いている

みたいに見えて、なんだか、

結華が遠い存在になってしまったみたいで、胸が苦しくなった。

私は、この日のことと、結華の姿を一生忘れることはないだろう。心の中で、

強く思った。

[小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨][小雨]

 2012年~

12月はもう、本当に大詰めを迎えていた

私は東京駅にいて、プロジェクションマッピングというものをひとりで見物に出かけた。

プロジェクションマッピングというのは、大きな建物や造形物に3Dの立体映像を

投影して、音楽に合わせたりしてイルミネーション感覚でそれを楽しむものだ。

私は、既に、30代の後半に差し掛かってしまった。そして、まだ、ひとりで

いるどころか、もう父を亡くしてしまって

いたし、20代の頃から仕事だけは相も変わらず、同じ仕事をしていたが、

反対に、そんな仕事でよく生活をしていける、とか、一人になってとても

愚痴っぽくなってしまった母親には、顔を合わせるたびに文句を言われる。

ちょうど、父がなくなる前に、ひとりの男性と同棲をしていた時期があった。

同業者で、結婚するつもりで同棲を始めて半年ほど経ったときに、父が突然

病に伏してしまった。そして、それから半年ほどであっけなく

亡くなってしまって、その影響か母はしばらく体調を崩してしまい、

そのことが原因で、私が忙しすぎたために、彼は簡単に出ていってしまった。

あまりに、あっけなく一度にいろんなことが起きたので、なんだか

ちっとも現実感がなくて、何に対しても涙のひとつも流れなかった。

父の葬儀のあと、1ヶ月くらいだった。いつものように部屋の鍵

を開けると、部屋の中はガランとしていて、

彼の荷物という荷物は何一つなくなっていて、キーホルダーの外された

鍵だけが、キッチンのシンクに転がっていた。

その時に、始めて気づいたこと。そう、彼は実家の話をしていたが、

「いつか行こう」と話したまま、

私はそれから1年もその話しにはまったく触れもしなかったっけ。忙しさにかまけて。

なんだか、何もかもが面倒になっていた。

母の体調もだいぶ安定し、すっかりひとりもんになってしまい、

もう結婚を夢見ることもなくなっていた。そんなことを母に冗談交じり

でいうようになりはじめていた、昨年の正月、結華から、

久々に年賀状が届いた。電話で、父のことや、彼との話なんかをしていたので、

本当に久しぶりだったが、そこには、子供と夫婦の幸せそうな写真が印刷されており、

なんだか、すっかり大阪のおばはんみたいになってしまったなあ、

と母と失笑した。

結華とはあの結婚パーティーの15年くらい前以来結局一度も

会うことができなかった。

この物語はフィクションです。

著作権は、ブログ作成者にあります        

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5 もし私が絵かきだったら、100年残るような大作になるはずだったのに!! [story [物語のスペース]]

世紀の映像ショーみたいな感じで、その、プロジェクション

マッピングが始まった。

プロジェクションマッピングのその光景は、幻想的はあるが、

まるで宇宙の遥か彼方へ人間の魂を運ぶための儀式のように

感じられる、実際にその光景を目にするとそう思える。

人は、暗闇と光から太古の記憶を遡るようにそんなことを

思い出すのだろう。

その東京駅の駅舎からは、今にも漆黒の夜空に向けて宇宙船のようなものが

飛び出すようで、昔にアニメでみた、宇宙ステーションとか、

そんなかんじに見えた。

その、光景を眺めているうちに、幼い頃に父と、母で、東京駅から

どこかへ向かうのに特急の電車に乗った時の記憶が蘇ってきた。

鮮明にその不確かな幼い頃の記憶が。

父と母の若かりし頃のイメージが頭の中をめぐって、もう何年も

涙なんか流したこともなかったのに、突如涙がボロボロとこぼれ落ちた。

まだ、何ひとつ私の人生から失われていない頃の記憶。

そして、それは二度と戻ってはこないもの。

その場に立ちすくんだ私は、その映像ショーを呆然と眺めながら、

自分自身という存在に何一つ残されていなくて、その、光の立体映像に

自分が溶け込んで、体ごと消えてなくなってしまうのではないかという

錯覚を起こした。そして、その瞬間、体中の力が抜けてしまうの

ではないかという感覚に襲われて、あわてて頭を振って、

体の力を振り絞った。

少し、疲れているのだろう。

だが、それは、疲れではなく、BGMを聞いているうちに私自身が抱える

喪失感なのだということを、突如強く感じたのだった。

今から何かを作り出すには、もうそれほど長い時間は残されていないように

感じられて、人生の敗北者になってしまったように体の細胞が力

を失ってしまっていた。

私の魂はまるで、水面の枯葉のように生という世界の中で力を失って漂って

いるだけになっていた。

私の目の前を、幼い女の子が迷子になったのか、あたりをキョロキョロしながら、

誰かを探して歩いていた。私が声をかけようとした瞬間、母親らしき女性が

その子をすっと、優しい眼差しで抱きかかえた。

ショーは、暗闇の中、宇宙を映し出す望遠鏡の像のようにくっきりと

光を映し出している。

そうそれは、幼い頃に図鑑で見た、バラ星雲や馬頭星雲の幻想的な

像のようで、次から次へと、天地創造のようなまばゆい光を放っていた。

                                     ~  end ~

著作権はブログ作成者にあります。この物語はフィクションです          [コピーライト]すぴか

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