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2 もし私が絵かきだったら、100年残るような大作になるはずだったのに (タイトル)  [story [物語のスペース]]

時は、ものすごいスピードで私の元を駆け抜けていく。都会の喧騒のなかでは、

一度であった人達も再び出会ったときには名前すら思い出せないこともよくあった。

その年の年末になり、両親が、とにかく年末に実家に顔を出すようにとしつこく

催促をするので、12月半ば過ぎの寒い日に1年半ぶりくらいだろうか、

故郷の土を踏んだ。

あたりは変わり映えしない風で、年末なのに故郷の街並みは割としんとしていた。

「まあ、あんまり変わらない様で安心したわ。」

母はそう言った。

「連絡も、よこさないからどうしているのかと気が気じゃなかったんだけれど。」

「父さんは?」

「父さんには、こっちには頻繁に戻ってきていると嘘を言ってあるから、

なんとか口裏を合わせてね。」

という母の言葉に私はうなづいた。

翌日にはすぐに都内へ戻るのだけれど、家を出るときに残してきた荷物の中で必要

なものだけをもって出る用意をした。

その中には、昔のアドレス帳や、アルバム、最近は聞いていない音楽のCDやらな

んやら、旅行バッグ一つ分もないくらいだったが、とにかくバッグに詰めて、

荷造りをした。

 幼いころから使っていたその部屋には、2年という空白の月日が、時間の経過に

伴って生じる一種独特のゆがみのようなものを作り出していて、私がかつてそこ

で日々生活をしていたということが信じられないような、異質な空気を醸

し出していた。そう、かつてそこで、日々を送っていた幼い私自身はとっくに

その空間では死者のようになっていて、この部屋は、いうなれば過ぎ去った時間

そのものだった。

親というのは、子供がどんなに大きくなっても、子がかわいいもので、母は、

私の帰郷に合わせて、駅前の和菓子屋で私の大好物の茶まんじゅうを買って

待っていた。

私が翌日の夕方に都内へ戻ることを話すと、母はとても寂しがって残念がった。

私は、荷物の整理を終えて、自分が昔使っていた学習机の椅子に腰をかけた。

母は、掃除を欠かさなかったようで、埃なんかはまったく溜まっていないのだ

けれど、この部屋には、長いあいだ人が使っていない独特のカビ臭さのような

空気が漂っていて、その匂いを嗅いでいるうちにいつのまにかウトウトと

うたた寝をしてしまった。

目を開けると、そこにはいつから使われていないのかわからないくらい古びた、

ウッド調の机がドンと置いてあって

その木造の古い床は、歩くとキシキシと音をたてた。

私は、なぜ急にそんなところにいるのかがまったくわからず、そこがどこな

のかもわからなかった。

いつの時代にできたものなのだろう?そのくらい古めかしい木枠の窓を

開けると、外には広い庭が広がっていたが、そこには誰もいなかった。

耳をすますと、今にもオルゴールの音か何かが聞こえてきそうなそんな風景で、

ただ私は、その景色をいつかどこかで見たことがあるような、そんな確信だけが

あり、でも、いくら記憶をたどっても、その景色がどこなのか、記憶が

一致しなかった。

とたん、どうしても、そのあたりに誰か人がいてここがどこなのかを教え

てくれるような気がしてあたりを探し回った。

ところが、そこにはいくら探し回っても人影らしきものはなく、

息を切らせて走りまわるうちに、心臓のあまりに激しい

鼓動で目が覚めた。

夕方過ぎに父親が電話をいれてきて、年末で忙しく、夜遅くなるという

ことを母に伝えた。私は、久々に母親の作る

手料理を食べて、安心しきってしまって、ずいぶん早い時間にリビング

のソファで横になってしまった。

父親の帰りにも気づかず、朝まで、そのまま寝入ってしまい、目が覚めた

時には、父親はとっくに家を出たあとだった。

それでも、リビングで寝入ってしまっている私の姿をみて、父親は安心したようだった、

と翌日の朝に母は私に言った。 

かえり支度をしていて、昔に着ていた衣類の中から、まだ着られそうな

ものをいくつか持ち出し、ついでにその中のずいぶん色の落ちた細身

のジーンズを履き、黒のモヘアのセーターを着込んだ。

夕方、母が買い物に出るついでに、私も家を後にした。一緒にバスに

乗り込み、母の横に並ぶと母はいつの間にか、ずいぶん小さくなった

ように感じられた。そして、私が幼い頃に一緒に

長い時を過ごした母の記憶よりは随分と老け込んでしまった。

駅の改札へ向かう私の後ろ姿をいつまでも、見送り続けて、母は駅前に

立ちすくんでいた。

私は、少し気恥ずかしいのを隠しながら、ゆっくりと手を振った。

ホームに吹き付ける北風は頬を刺すように冷たく、年末の喧騒は本当に

慌ただしかったが、私は、この慌ただしさをなぜか心の底から愛おしく

思い、また、新しい年が迎え

られることに感謝をした。

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