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ルリスズメダイの青い色 [story [物語のスペース]]


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  みくはある休日、いつものマーケットから家にかえってきて、ふと、

      例のお気に入りの水槽の絵をかいてみようとおもいたった。自由画帳に

      青い色鉛筆で、群れをなして動き回るその魚たちの絵をかいてみたが、

      思うようにはいかず、何度かきなおしてもあじやサンマのようにしか

      みえなくてみくはとてもがっかりした。



 どうしたら、あの水槽の魚たちを上手にかけるのだろう?

   みくのもっている色鉛筆や、クレヨンはみんな12色入のもので、
    少し複雑な色をつけようとすると、何色も重ねたりしなくてはならないし、
    色が黒ずんできてしまう。次の誕生日がきたら2倍か3倍くらい種類がある
    色鉛筆がほしいとねだってみようと思った。



やはり、何回書き直しても、食卓にならぶ魚たちを描いているように

なってしまって、うまくいかない。みくは、普段割と絵が上手なほうで

図鑑や本をみて描けば結構上手にかけるはずなのだが、何度絵をかいて

みても、なぜかうまくいかずにみくはすっかり肩をおとした。

    次にあの場所にいくときにはスケッチブックをもっていこうとひそかに誓った。


 マーケットにその水槽がおかれるようになってからもう一年はたっただろうか?

 

    水槽のなかには、ルリスズメダイ以外にもちがういろをしたスズメダイの

    なかまや  ピンクしたハナダイのなかまなんかが一緒にくらしていた。

   ほかにも5センチ前後の小さな魚たちばかりなのだけれどどれもとても
     鮮やかな色をして いる。



 最近になって新しい仲間がくわわった。それは、くまのみのなかまで

  オレンジ色に白のストライプがはいったかわいらしい魚だ。



5匹ほどのその新入りくんたちは、ピンク色のいそぎんちゃくのまわりで

姿をだしたりひっこめたりしながら、いつのまにか水槽の光景にすっかり

同化していた。くまのみは世界に100種類くらいいるそうだ。

みくは以前によんだ図鑑にそう書いてあったことを思い出した。



そして、くまのみはイソギンチャクに共生している。オスとメスとその

ほかに何匹かの稚魚を従えて、ひとつのイソギンチャクに共生しているのだ。

 イソギンチャクは要するにすみかなのだが

  くまのみはイソギンチャクに隠れて外敵から身をまもる。また、

     イソギンチャクをたべようとする外敵があらわれると、くまのみ

     は縄張り意識から外敵を攻撃する。そうして、くまのみとイソギ

    ンチャクの共生関係は成立しているという。まあ、そうはいっても、この

 マーケットにあるこの水槽の中は例外で、この中は平和そのものだ。

  みくは、それをよんだときに、みくたちと同じ人間の家族のようだ、
    と思い、くまのみのことがとても好きになった。なので、
    この水槽にくまのみが新入りで仲間入りしてきたことを嬉しく思ったし、
    親近感をかんじた。

くまのみが登場してすぐ、みくは家に帰ってさっそくスケッチブック

に下書きしておいたくまのみの絵に色を塗った。今回はとても上手に

かけて、その絵はどこからみても正真正銘のくまのみに見えて、

みくはほかの兄弟たちに誇らしげに自慢げに絵を見せび

 らかした。



「今度のは上手にかけたね」

「みくねえちゃんの絵はとてもきれい。」


    みくの弟や妹たちはみんなみくの絵をとても上手だと口々にほめた。

そしてみくは、その絵をベッドの枕もとの壁のところに貼って満足げ

に眠った。



  その夜みくはとても不思議な夢をみた。



 みくは水槽の中らしきところにひとりたちすくんでいた。ところが、

   まったく息苦しくはなく自然な感覚だ。


  おそらく水槽のなかであろうと思われるその場所は、普通の空気中

とはちょっと雰囲気がちがうような感じがする。



ちょうど、岩場のようなところにみくはたっていて水槽のなかは 

宇宙空間のように端っこもわからないくらい広々としていた。



  そして、夜空のように深―い藍色であたりはしんと静まり返っていた。


     くまのみが頭上を飛行船のようにかすめていって、みくはおどろいて

まえのめりになった。よくみると、すこしはなれたところに、ルリスズメ

ダイが群れになってうかんでいるのがみえた。



  みくは、それで自分が本当に水槽の中にいると確信して、

     とてもわくわくしたのだ。なんだかそれは、プラネタリウムで星空を観察し

    ているみたいな感じで、すこし先の方でピンク色にひかっているサンゴの

    ところまですすんでいって、そこにみくは腰をかけた。



 サンゴに腰をかけて、頭上を見渡すと、クマノミやスズメダイ以外にも、

    あまり見たことのない大きな魚や小さな魚が宇宙遊泳でもするかのように

   ゆったりとおよいでいる。



 何種類かのさかなたちは、頭上でちょうど星座のようにゆっくり形をつくりながら、

    泳いでいた。



 魚たちがおよいでいる様はさながら、夏の大三角形のわし座やはくちょう座の

    ようで群れをなして泳いでいる様子はちょうど、星の並びのように見えた。



 そして、魚のからだについている模様が、鮮やかなさかなのからだの色をさらに

    ひきたてるように規則的にならんでいるので、なおさら夏の星空のようだ。



 水槽の中の酸素ポンプから流れ出てくる気泡が、天の川の星の群れや宇宙の 

    ガスやちりのようにぼんやりと、水槽のライトに反射をしていて、きらきらと

    輝いていた。その向こう側に半人半馬の姿をしたいて座の南斗六星の形がみえ

   てくるような気がした。



 みくは水中で砂地を歩くことができた。



 水を手でひとかきすれば、魚たちのように水の中にふわーっと浮かぶこと

   もできそうな感じだった。



 ひとでが、空からおちてきた流れ星のように砂底にころがっているのだ。



 スズメダイのなかまのうすいピンク色をした魚が、むれからはぐれて一匹だけ、 

   そのあたりをうろうろしていた。それはまるで夕空の金星のようにくっきりと

   うかびあがってみえてみくはまるで、じぶんが月面にでも着陸したような感じ

    になって、とても幸せな気分に

 なっていた。



ずいぶん長い間、みくは飽きもしないで月面探検のようにあちこちをあるき

まわったのだ。



両腕をのばして泳ぐように、水を大きくかく仕草をしてみた。すると体が水

のながれにのって地面をすこしだけはなれた。ところが水のながれが強い

部分があって足が砂地からはなれると流されそうになってしまうので、

みくはあわてて足をついて、すこし地面で足を踏ん張った。



 足元にはサンゴの残骸の大粒の白砂が見渡すかぎりひろがっていて、

   みくはいつまでも、 飽きずにあちこち歩き回ったりおよぐ真似事を

   して水槽の中を探検した。



みくの眠るベッドに朝日が差し込んできて

まぶしさにふと目を覚まし、朝がきたことがわかって今までのが全部夢の

中の出来事だと付くと、みくはとてもがっかりして肩を落としたのだった。

それから数日後・・・・・・・・・みくは

 画用紙をひっぱりだして、部屋をあさって折り紙やいろいろな包装紙なんかを

  mあつめていた。

 弟や妹たちはおどろいて、みくにむかって

 「何をしているの?」

 とたずねた。

 「あの水槽の絵をかくんだよ」

 「え、またあ」

 妹たちはすこしあきれて言った。

 「でもこんどはいつもとちがうんだよ」

 「いつもとどうちがうの」

 「できたらみせてあげる」

 みくはのりとセロハンテープをもってきて

 はりきっていた。

  白いクレヨンで、青い画用紙になにやら下書きのような線をかいた。

青い画用紙といっても、すこし紺色がかったような群青のような色の

画用紙だ。みくはいったいどこからその画用紙をさがしてきたのだろう?

それはとてもおおきく横幅だけでも1メートル以上ある。

 みくはその画用紙にサンゴや岩のかたち、そして、魚の形を白いクレヨン

    をつかってどんどん描いていく。

 以前にあつめておいたあめやチョコレートの包み紙がたくさんあったので、

   サンゴの ところにはピンク色の紙を貼りつけ、オレンジや白の包み紙は

    はさみでちょきちょきと切って、つぎからつぎへとはりつけていった。

また、セロファンや折り紙なんかも集めていたものがたくさんあったので、

みくの部屋はいつの間にか道具や材料でやまのようになっていた。

 そうしているうちに、妹や弟が外からかえってきて、みくの絵をみて

   とてもおどろいた。なににおどろいたのかというと、まずその画用紙の

   おおきさにとてもびっくりした。

 「わあ、すごい、こんどのはとても上手」

 妹たちは口々にそういった。

「でもまだ完成じゃないんだよ」

 みくがそういうと、

「なんで?」

 と口をそろえていう。

「ルリスズメダイの色がみつからないの」

「それはどんな色?」

「光にあたると色が変わる濃い青」

「むずかしいねえ」

「うーん」

  土台の画用紙のいろも同じようないろだったが、ルリスズメダイの色は

    もうすこしだけ光沢があってきらきらしていた。それと、光の加減で色が

    変化する。そのことが一番のネックだったが、同時にルリスズメダイの神秘

    的な色合いの象徴だった。

もうすぐ夕食の時間だったので、そのはなしはそれで終わりにしたのだ

けれど、みくはそれから毎日、その青い色にぴったりの絵の具やクレヨン

や、包み紙をさがした。せっかく宇宙のような水槽の絵がもう少しででき

あがるのに、みくの一番大好きなその青いいろだけがなかなかみつからない。

 1週間くらいたっても、ちょうどよいものがみつからない。みくは

    しばらくの間、暇があれば部屋の中を画材にちょうど良いものをさがすために、

   あちこちひっくりかえしていた。けれど、結局みくはその色をさがすのをあきらめ

    ていったんはしかたなくベッドのくまのみの絵といっしょにならべてその絵を

    はることにした。

「もうできたの?」

 兄弟たちがのぞきこんだが、

「けっきょく、青い魚をあきらめたんだよ」

 とみくが残念そうにいうのをみて

「でも、とても上手だよ」

 と妹がいった。

「ありがとう」

 とみくは、ベッドにはいって眠りについた。

 残念なことにルリスズメダイだけがその絵の中には存在しない。

 

みくは、また、日曜日になると飽きもせずにあの水槽の前でじーっと

水槽を眺めている。

 そして、あのルリスズメダイの姿をみるたびにがっくりしていた。

 帰りの車のなかで、みくのおとうさんは、

 みくに、水槽のことをきいてきた。

 みくは、水槽が気に入って水槽の絵をかいたが、上手にできなかったと

    話した。

それと宇宙探検のようにあのおおきな水槽を探検した夢をみた、

という話もした。

そしてそのとき夢の中にでてきた景色がとにかく信じられないくらいに

美しかったんだ、という話をした。

 みくが話終わると、おとうさんはみくに一冊の本を手渡した。

   ほかの兄弟やおかあさんがみくががっかりしているのに気がついて、

   おとうさんにこっそり話しをしていたのだ。 

 その本は表紙にルリスズメダイの写真がおおきくのっていて、

「わあ、すごーい」

 とみくはとてもうれしそうな声をあげて喜びんだ。

 みくがつぎの絵をかくときには、きっといままでより何倍も

上手に水槽の絵がかけるようになるはずだ。なぜならその図鑑があれば

同じような色の画材を探すこともいままでよりももっと簡単にできるようになる。

そして、こんどこそ、ルリスズメダイの青色にとてもよくにている理想の青い画材

もみつかるはず・・・・・

End

19740911061




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